中谷友星(以下、ゆーせい)さん
1982年、大阪府生まれ。幼少期から様々なスポーツに打ち込み、大学3年から始めたエアロビクスインストラクター歴16年目(2020年現在)。
現在はインストラクター業のほか、GOGOBOY / フロアーBOY / TINY BOYとして全国各地でイベント出演多数。
FTMとしてフィットネス業界のパイオニア的存在。

ゆーせいさんが、性の相談サービス「ぽかべちゃんいますか」に申し込んでくださったのをきっかけに初めてお話しました!
1時間お話しした後に、「FTMさんの性にも切り込んでみてくださいね!」と連絡をいただき、そのときに初めて「えっ!もしかして…ゆーせいさんはFTMさんだったんですか〜!」となりました。

FtMとはFemale to Maleの略で、生まれてから女性という性を割り当てられたものの男性として生きることを望む人を指します。
ぜひ取材させてください!と熱烈アピール(笑)させていただき、お話を聞かせてもらうことになったのでした。
ハツラツとした豪快な笑顔がステキなゆーせいさんは、これまでどんなことを考え、どんな半生を歩んでこられたのでしょうか?
もくじ
どうして性別を変えたんですか?
ーぽかべは、からだの性と自覚している性が同じ「シスジェンダー」で、異性愛者の「ヘテロセクシュアル」です。
性別に対して違和感を抱くとか、変えたいと思ったことがないので、純粋に感覚として分からなくて…。
なぜ、ゆーせいさんは性別を変えたんですか?
ゆーせい:(しばし考え込む)…うーん、なんででしょうねぇ??
ーまさか「なんでだろう」って返されると思わなくてビックリしています!(笑)
こう、性別が変わるってどんな感覚なんですか?「やっとしっくりきたな」とか、あるいは「生まれ変わった」とか…。
ゆーせい:どうなんだろう。性別を変えなかったら困っちゃうけど!
でも、変えることは自分にとって自然なことでした。
ーゆーせいさんがあまりにも軽やかなので、拍子抜けしました。
性別を変えられた方って「すごく悩みが深くて」「苦しんだ過去を持っている」みたいな私の中の思い込みがあったのかもしれません…。
ゆーせい:もちろん僕も大変なことはあったと思いますし、苦しんでいないわけではないです。
でも、過去の思い出を「隠す」ことはしたくないんです。
ゆーせい:FTMのなかには過去を隠す人がいますし、僕のようなオープンな考えの人たちが表に出て発信することをよく思わない人もいます。
例えば、プライドパレードなどに参加すると「表に出て目立つようなことはやめろ」みたいな賛否両論が出てくることがあります。
それは、その人が「FTMの認知度が上がったら、自分の過去が周囲にバレてしまうかも」と恐れているからでもあるのかなと。
ーなるほど…。確かに、性別を変えることによって好奇の目線を向けられるのが怖かったり、隠したい気持ちには共感できるかも。
私自身、地元に帰るとWEBフリーランスの働き方について特殊だと思われることが多いので、同窓会はちょっと尻込みしてしまいますし(笑)
ゆーせい:僕自身は、同窓会するのが好きなんです!
旧友と昔の話をしていると、その時代にタイムスリップするんです。みんな「その時代に戻る」んですよね。
ちなみに友人たちはいい大人なので(笑)、僕の見た目が変わっていてもわざわざ「なんで?」とかって聞いてきません。
性別が変わったことも、ぜんぶ自分で考えて、自分で責任持って決めてきたことですから、隠す必要ないかなって。
ーゆーせいさんが、自分の選択に誇りをもっているのが伝わります!
私も、同窓会をもっと純粋に楽しみたいなあって思いました(笑)
とにかく部活やカルチャー漬けで「ヒマがなかった」小・中・高時代。
この投稿をInstagramで見る
写真は、一緒に暮らしている15歳のミニチュアシュナウザー「レディ」。
ー1歳から水泳教室に通っていて、生まれてから今までほぼずっとスポーツ漬けの生活を送るゆーせいさん。
学生時代にはどんな過ごしかたをしていたのでしょうか?
ゆーせい:小学校に入るときには、「女の子だからランドセルは赤色」ってところに違和感をもってました。
持ち物の色も、可愛い色よりはカッコイイ感じの色が好きでしたね。
ゆーせい:ただ、年齢が低かったこともあって、性別じたいを意識するような感じではなかったと思う。
とくに、小学校4年生からは東京のクラブチームに所属して、男女関係なく混ざり合ってサッカーにのめり込んだりしてたので。
制服でスカートも履いていたみたいだけど、全く記憶がないです(笑)
ー性差を意識するヒマもなかったんですね。
ゆーせい:中学校・高校の制服もスカートだったんですけど、「規則だから仕方ない」という感じで、嫌だと思ったことはなかったですね。
中学も「その学校で一番強い部活に入る」と決めました。”ガチ”のバスケットボール部に入部して、コーチも鬼のような人で…とにかく忙しかった!
ゆーせい:しかも、僕たちが中学生くらいだった頃って、カルチャーがすごく充実してませんでしたか?!「イマ当たり前になっているものの出始め」な時期だったと思います。
携帯電話(ガラケー)が出てきたりとか、プリント倶楽部が出てきたりとか。テレビをつければTRFやSPEEDが歌うし、面白いドラマもたくさんあって…。
ジャニーズ関連のニュースを「明星(みょうじょう)」を読んでチェックしてさ…。
補足:「明星(みょうじょう)」とは、ジャニーズ情報が満載の雑誌です。みんな知ってるかな…?(笑)
ーわかります、赤西くんと亀梨くんが「ごくせん!」に出てた頃とか、毎月明星を買って回し読みしてたなぁ…。
かっこいい写真を切り抜いて、オリジナルのコラージュ帳を作ってましたね(笑)
ゆーせい:SPEEDの「White Love」のサビが流れてきたら、我々世代は思わず体が動いちゃうでしょ!?
(と、両手を上から下にゆっくり下ろして踊るゆーせいさん。動きがプロw)
ー思わず踊ってしまいますよね(笑)当時ってテレビの存在感が大きかったし、カルチャーがめちゃくちゃ面白かった気がしますね!
ゆーせい:そうそう。その時その時の流行を追いかけるのが楽しくて、やることがたくさんあった!
僕は新しいものが好きだから、短いスカートが流行れば履いたし、ルーズソックスが流行れば履いたよ。
部活と遊びをしてたら、恋愛もやってる暇がなかった。
だから、性別に対してなにか違和感に感じることはあまりなかったと思う。
ゆーせい:当時は「楽しさ」を感じるまでのハードルが低かったような気がする。
僕たちがやってたことなんて、授業中にこっそりルーズリーフに手紙書いて回して笑ってたり。
手紙の折り方をハート型とかにして楽しんだりしてた!!!
ーいや〜〜めちゃくちゃ同じです。授業中に手紙書いて回すの、みんなでやってたなあ(爆笑)
ゆーせい:そんなふうにしてたら気付いたら進路を考える時期で。
高校時代も「一番強い部活に入る!」と決めて、ソフトボールに打ち込む生活でした。
いちばん面白かった思い出は、たった一度だけ同級生たちと学校の授業を抜け出したことですね!(笑)
「抜け出しちゃおうぜ!」と計画して、一斉にストライキしたんですけど、ほかの同級生たちは弱気になってだんだんと教室に戻って行ってしまったりして!!
気付いたらメンバーが減っているので、「あれっ!メンバーこれだけ?あいつら戻ったな!」と思ったり(笑)
ーそれは、同窓会で話したらめちゃくちゃ盛り上がるネタですね!(笑)
学生時代にインターネットがあったらよかったと思うか?

ー私も中学校時代にはいじめられてたので思うんですけど、その当時にもっとインターネットが普及していたらもっとラクだったのかなぁって想像したりします…。
何もしてないのに、理不尽な理由をつけられて、体育館裏に呼び出されたりしてたので(笑)
つらいのは自分一人じゃないって思えるし、ネットを介して誰かに相談できたかもしれないですし。
それこそ、性別に違和感がある人にとっては、ほかの人たちの生き方を知るきっかけにもなりますよね。
ゆーせい:僕はそこは結構逆の考え方をもっていて。
例えば、ネットがあることのデメリットとして、いじめのやり方がもっと陰湿になるんじゃないかな。
ーなるほど、確かに…。
高校教師をしている友人が「生徒がインスタライブで友人の悪口を言って喧嘩しあってる」と教えてくれて、仰天した記憶があります。
ゆーせい:そう考えると、体育館裏に呼び出されて直接言われるなんて、アナログで可愛いくらいじゃない。w
むしろ、「呼び出しぐらいで済んでよかった」という考え方もできるよね。
ゆーせい:それに、「他の人がどうしているか情報が入ってくる」のは良い面もあるけど、どうしても影響されてしまうから悪い面でもあって。
FTMでも「あの人は何歳までに手術してるから自分も…」とか、他の人がこうしてるからって理由で判断を焦ってしまう子が多いと感じてます。
ーいやでも情報が入ってきてしまう、という捉え方もできますね。
ゆーせい:ちゃんとした情報かどうか取捨選択するのも難しいなと思う。
例えば、身体の手術をする病院をきちんと選ばないと、リスクも伴ってしまうということ。
きちんと情報収集しないといけないですし、自分が選んだ結果にはそれ相応の責任が伴ってきます。
ゆーせい:だから、自分で考えて自分で責任をとれるようになってから選択しても遅くないと思う。
誰かがこう言ったからこうした、という選択の仕方をしてしまうと、結局自分のためにはならないんだよね。
とくに、体のことって「後戻りできない選択」になってしまうので。
ゆーせい:よく考えたら、体は変えなくてもいいやって結論になるかもしれないですしね。
あと、ホルモン注射を始めるってなったら、数年スパンでお金を払って続けないといけないです。
料金も、戸籍を変えないと保険適用外ですし、注射や病院の種類によっても料金が変わります。
もしいま若い人にメッセージを伝えるなら「焦らないでほしい」って伝えたいです。
ー説得力のあるメッセージ、ありがとうございます。思春期は特に人と自分を比べて考えがちな気がしますしね。
焦りをなくすことは難しいかもしれませんが、「自分って本当はどうしたいんだろう?」っていうのが見えてくるまでは、勢いに任せた選択はしないほうがいいのでは、と私も共感します。
「あんたは白か黒か?」と聞かれて、初めて自分の性別を意識した大学時代。
ゆーせい:高校を卒業した後の進路を考えるとき、ふと「女子大学には入りたくない!」と感じて。
履歴書を書くときに、女子大学の学歴が残っちゃうのか〜と思ったんです。
体育大学なら、文面で見ても性差は感じないからいいかと思いました。
ー性自認とまではいかないけど、なんか女性はヤだな〜って意識があったんですね…!
ゆーせい:大学に入学した時、転機が訪れました。友人に「あんたは白黒どっちなの?」と聞かれたことがあったんです。
白か黒かってのは「異性愛者か、同性愛者か」ってことを差していました。
そこで初めて「同性を好きになる人がいる」ってことを知ったんです。
ーゆーせいさんがセクシャリティについて考える原体験になったってことなんですね。
ゆーせい:はい。そこからネットなどで、セクシャルマイノリティに関することをめちゃくちゃ調べまくりました。
キャリア6年目。インストラクターをしながらホルモン治療を開始!
この投稿をInstagramで見る
ゆーせい:性別を変えることは「自分で考えて自分で決めること」だと思っているので、ほかの人に相談はしませんでした。すべて事後報告なんです(笑)
さっきもちらっと話しましたが、誰かがこうしてるから自分も…という判断をすると、結局は自分を不幸にすると思うので。
女性インストラクターとして、女性向けプログラムを担当することも増えてきていたので、それも性別をどうしていくか考えるきっかけになりましたね。
ゆーせい:でも、すぐに手術はしませんでした。
自分で決めたことにきちんと責任を取れるようになりたかったので、インストラクターとして職場に貢献できる人になり、また、自分のお金で手術や治療ができるようになってからにしよう、と決めました。
ーゆーせいさんの話を聞いているとなんか…「これが大人か!!!!」と思わされます…!
ゆーせい:ハッハッハ(笑)
そうしてインストラクターを続けていって、6年目にして「性別が変わっても、きっとお客さんは離れていかない」と確信できました。
そこで、性同一性障害の診断を受けて、男性ホルモンを打つ治療を開始しました。
ーめちゃくちゃカッコいいです。仕事人として尊敬する…。
でも、インストラクターを続けながらホルモン治療をするのって結構大変じゃないですか?
ゆーせい:ホルモン治療を始めたてなのにレッスンは穴を開けずに続けてたので、それは正直大変でした。
体調不良になることはなかったですが、「副作用があっても休みの間に解決する。仕事は仕事なので影響させないように」と思ってました。
また、業界にインストラクターの性別が途中で変わるという前例がなかったので、ロッカーの使い方などもその時に決めました。
僕は戸籍上の性別を変えていないので、ロッカーは女性用を使っています。それはインストラクターとしての規則なので仕方ないですね!
ーゆーせいさんの仕事への向き合い方がとても真摯なので、思わず背筋が伸びます。
性別が途中で変わって、お客さんの反応はどうだったんですか…?
ゆーせい:お客さんは「あれっ?」と思ってたんじゃないでしょうか(笑)
ホルモン治療を始めてからは体毛も濃くなりましたし、ヒゲも生えてきました。お客さんの間では「なんか最近、先生ヒゲ生えてない!?」とざわざわしたそうです!(ここで、ゆーせいさんぽかべともに爆笑。)
でも、お客さんたちは僕が性別を変えたことを知ってますが、それでも普段通り接してくれています。
性別関係なく、いちインストラクターとして信頼してもらえているからだと思います。
ーお客さんともしっかり信頼関係が築けているということなんですね。
ゆーせい:最近では、「性別を変えたいインストラクターがいるけどどう対応すれば良いか」など他の地域からも相談がくるようになったんです。
こうして発信することで、誰かの役に立てているのかもしれないと思ってます!
カミングアウトをする相手は慎重に選んだ方がいい。

ゆーせい:ホルモン治療を始める前に、尊敬する2人の同業者の先輩に「性別を変えようと思っています」と打ち明けたんです。
その人たちが、本当に素敵な大人で。自分は恵まれたなと思っています。
ゆーせい:ひとりは、「あなたの人生だし、あなたがそう決めたならいいんじゃない?」と。
もうひとりは、「最初から分かってたよ(笑)」と。その上で、「他の人からなんか言われたら私が守ってやるから!」と言ってくれました。
もう、そんなカッコイイこと言われたら惚れちゃいますよね!(笑)
ーうお〜、カッコイイですね〜〜!
ゆーせい:カミングアウトするときって、最初に誰に話すかが本当に大事だなと思います。
最初に打ち明けた人から、こっちが傷つく反応をされたらもう立ち直れなくなりますよ。そこは慎重に考えた方がいいと思っています。
おわりにー「自分で考えて、自分で決める」そんな選択を!

性別を変える変えないにかかわらず、自分に自信が持てなくて同窓会に行かない人って一定数いますよね。
ぽかべ自身も、会社を辞めたし、WEBフリーランスの働き方って一般的じゃないから説明がしづらいし…と「隠そうとする」一面があったなあと振り返りました。
自分が心からそうしたいなら全然いいと思うんですけど、やっぱりちょっとモヤモヤするというか、楽しくないというか。
今度また同窓会に誘われた時には、ゆーせいさんの言葉を思い出して、ありのままの姿でどーんとぶつかって、純粋に懐かしさを楽しんでみたいなあと思いました。
また、ゆーせいさんをインタビューして印象的だったのは「自分で考えて、自分で決める」という言葉です。
これはゆーせいさんの人生哲学として、貫かれている考え方でした。
性別というアイデンティティに深く関わっているテーマだからこそ、自分がどうしたいか?を大切に判断していくことが大事だなと実感しました。
ゆーせいさんは他メディアでも数多くインタビューされているので、ほかの記事もぜひあわせて読んでみてください。
与えられた性別を言い訳にはしたくない【中谷友星】(LGBTER)
イラストで楽しく紹介★U-SEIのトリセツ/女性から男性になったインストラクターの前向きな人生の歩み方とは?(newTOKYO)
「LapH(ラフ)」というFTMをテーマにした雑誌もおもしろいのでぜひ。
Kindle Unlimitedで全シリーズ無料で読めたので、この機会に一気読みしてみました。
個人的に必読なのは、ゆーせいさんのお母さまへのインタビュー記事!
2011年3月10日。カミングアウトされたお母さまの「死んでしまいたい」という苦悩、その直後に襲った東日本大震災で得た教訓、そして和解…。
家族のあたたかさに、もう涙なしには読めません。本当にすごい記事です。
娘が “息子” になって、もっと我が子を愛せた(LGBTER)